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日本障害者協議会 応益負担の導入に関する見解

 20051月7日

厚生労働大

尾辻 秀久 殿

日本障害者協議

代表 河端 静

応益負担の導入に関する見解

厚生労働省がこのほど公表したいわゆる「改革のグランドデザイン(案)」(以下、グランドデザイン)の中で、サービスに対する応益負担の導入が明示されている。

 本協議会は、今般の「応益負担制度」に対して全面的に反対するものである。

 私たちはこの30年あまり、個人としての独立を訴え、家族に依存することのない社会を実現するため、諸々の政策提起を行ない続けてきた。具体的には、扶養義務範囲の見直し、本格的な所得保障制度の確立、そして地域社会で生活できる社会基盤の整備などであった。

 改めて過去を顧みるとき、障害基礎年金創設がいかに重要であったか、このことを痛感させられる。当時の厚生省と私たちの思いが重なり、不十分とはいえ障害のある人びとを対象とした固有の所得保障制度が、その第一歩を踏み出したのであった。所得の保障は、経済条件の改善に留まらず成人に達した障害のある人びとの独立性の尊重という点においても、新たな政策観に道を開くものであった。こうした動きと関連しながら、施設を利用する者の費用負担にあたっては、親・兄弟の収入要件が外されることになった。昨年度から施行されている支援費制度においても、この考え方が踏襲されているのである。

 今般のグランドデザインは、利用者の費用負担をめぐって、これまで積み重ねてきた考え方を大きく突き崩すものである。応益負担の導入は言うに及ばす、費用負担が同居家族にまで及ぶというのは、障害のある人びとの「独立性の尊重」という観点からも絶対に受け入れられるものではない。とくに、応益負担については、その多くが障害基礎年金のみで生計を維持していることを承知しながらなぜこうした方向を打ち出すのか、どう見てもまともな政策感覚とは思えない。応能負担との混合制度であるとはいうものの、その基本を応益負担に切り換えたこと自体が重大な問題なのである。そもそも、グランドデザインで示された一連の制度そのものが障害のある人びとにとっては「益」と言えるものであろうか。社会に生きていく上での最低条件であり、決して「益」などと言われる代物ではないのである。また、負担割合の増という点でも将来の不安は拭えない(当面は1割負担とされているが)。

 応益負担導入の理由として、高齢者施策など他制度との整合性を掲げているが、このことは極めて機械的な公平論であり、強引な方便であると言わざるを得ない。障害の重い人びとと高齢者との決定的な差異は、資産形成が図りにくいということである。また、社会資源の整備状況は、高齢者よりはいっそう厳しい状況にある。事業者側に有利な条件下にあって(いわゆる売り手市場)、経済基盤の脆弱な障害のある人びとが、応益負担の導入でこれまで以上に不利な条件に立たされることは火を見るより明らかである。結局は、障害のある人びとを、再び親や兄弟の扶養の中に押し込めかねないのである。社会保障審議会での論議やグランドデザインの中で幾度となく繰り返されている、自己決定や自己選択の本質は何であったのだろうか。「財政抑制のためには手段を選ばず」、私たちにはこのようにしか感じられないのである。

 本協議会はすべてのサービスを無料にと言っているわけではない。人間としての尊厳を求めているのである。政策全体が発展する過程で、負担のあり方が検討の俎上に上がることは決してやぶさかではない。障害者福祉のみならず、社会福祉全般について、市民や利用者がどう負担していくか、今後のわが国における重大な政策課題であり、本協議会としても積極的にこの議論に参加していく用意がある。

 今般のグランドデザインは、いくつかの点で私たちの要望を反映しているものである。しかし、応益負担の導入はこれらを打ち消して余りある政策後退である。障害者団体と厚生労働省とで培ってきた、障害の重い人びとの自立や独立をめぐっての共通認識をご破算にするという意味からも残念でならない。今般の応益負担の導入について、ここに改めて明確に反対の意を表し、その撤回を求めるものである。


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