本協議会の政策委員会内に設けられた「欠格条項問題ワーキンググループ(責任者:岩崎晋也/法政大学助教授)」では、「障害者に係る欠格条項」の見直しに係る改正法案の意見募集を行っていた関係省庁に対して、次の意見を提出しました。
障害者に係る欠格条項の見直しについては、障害者施策推進本部決定(平成11年8月9日)の「障害者に係る欠格条項の見直しについて」における<対処方針>に基づき、63制度について見直しが行われ、現在43制度が見直しを終了しています。対処方針では「現在の障害者に係る欠格条項が真に必要であるか否かを再検討し、必要性の薄いものについては障害者に係る欠格条項を廃止するものとする」としていますが、見直しが終了した多くの制度において「相対的欠格」が残る結果となっています。
1月14日提出 | 所 管 | 制 度 | 法令名等 |
国土交通省 | ・通訳案内業免許 ・地域伝統芸能等通訳案内業免許 |
・通訳案内業法 ・地域伝統芸能等を活用した行事の実施による観光及び特定地域商工業の振興に関する法律 |
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国土交通省 | 船舶乗務のための身体検査基準等 | 船員法、同法施行規則、船員労働安全衛生規則 | |
経済産業省 | 火気類取扱い | 火薬類取締法 | |
農林水産省 | ・家畜人工授精師免許 ・獣医師免許 |
・家畜改良増殖法 ・獣医師法 |
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文部科学省 | ・放射線同位元素等の使用、販売業等の許可 ・放射性同位元素又はこれに汚染された物の取扱い並びに放射線発生装置の使用の制限 |
放射線同位元素等による放射線障害の防止に関する法律 | |
1月17日提出 | 警察庁 | ・警備員の認定 ・警備員の制限 ・警備員指導教育責任者・機械警備業務管理者 ・警備員等の検定資格 |
警備員法 |
警察庁 | 鉄砲又は刀剣類所持に係る調査業務 | 銃砲刀剣類所持等取締法 | |
警察庁 | 自動車等の運転免許 | 道路交通法施行令の一部を改正する政令試案 |
<1月14日提出>
●国土交通省「通訳案内業免許」及び「地域伝統芸能等通訳案内業免許」
今回の通訳案内業法及び地域伝統芸能等を活用した行事の実施による観光及び特定地域商工業の振興に関する法律の一部改正については、なぜ当該欠格条項の存続が必要なのか、いかなる理由で「真に必要」だといえるのかが、全く明示されておりません。昨年12月18日に行われ、当会も参加した説明会においても、その理由は明示されませんでした。
今回の見直しは、障害者施策推進本部の方針に従ったものと思われますが、その趣旨は「真に必要なもの」を除いて原則廃止というものと認識しております。
「真に必要なもの」であることが示されない当該欠格条項は、当然廃止されるべきと考えております。
また実際に、当該欠格条項を廃止しても、試験に合格し、能力があることが示されれば、免許を交付しても何ら社会的に問題がないと考えております。
ぜひ、廃止に向けて再度ご検討くださるようにお願い申し上げます。
●国土交通省「船舶乗務のための身体検査基準等」
今回の船員法の一部改正案につきましては、「精神病者」の船舶乗務の道を開くものと評価しております。ただし「精神の機能に着目し、船内における労働を適正に行うことができるか否か」という判断基準が恣意的に運用されると、結果として現状と変わらなくなることを危惧しております。
そもそも精神障害をもつ人が、船舶乗務が困難になるほどの状態になるのは、急性精神病状態などの特定の状況にある場合のみであり、通常は、精神の機能を理由として不適格になることはありません。
よって、健康証明を行う指定医に対して、不適格となる場合の明確な基準(急性精神病状態にある場合に限定する)を示していただき、かつ指定医の研修等で周知徹底をしていただき、法改正の趣旨が活かされるようにご配慮いただきたくお願いいたします。
●経済産業省「火気類取扱い」
今回の火薬取締法の見直しにつきましては、相対欠格への改正であり、一律に排除していた現行法に比べ改善されたと評価しております。ただ「知的障害者」と「精神病者」を包括する表現に改正するとありますが、欠格の対象を判断するには、安全の確保に必要な能力であり、能力に着目し、障害を特定しない内容とするようにご検討いただきたいと思います。
なお、精神障害者につきましては、取扱いが困難になるほどの状態になるのは、急性精神病状態などの特定の状況にある場合のみであり、通常は、精神の機能を理由として安全な取扱いが困難になることはありません。
よって、具体的な基準を策定される場合には、急性精神病状態にある場合に限定し、必要以上の障害者の権利制限をしないようにご検討いただきたくお願いいたします。
●農林水産省「家畜人工授精師免許」及び「獣医師免許」
今回の家畜改良増殖法及び獣医師法の一部改正については、なぜ当該欠格条項の存続が必要なのか、いかなる理由で「真に必要」だといえるのかが、全く明示されておりません。昨年12月18日に行われ、当会も参加した説明会においても、その理由は明示されませんでした。
今回の見直しは、障害者施策推進本部の方針に従ったものと思われますが、その趣旨は「真に必要なもの」を除いて原則廃止というものと認識しております。
「真に必要なもの」であることが示されない当該欠格条項は、当然廃止されるべきと考えております。
また実際に、当該欠格条項を廃止しても、試験に合格し、能力があることが示されれば、免許を交付しても何ら社会的に問題がないと考えております。
ぜひ、廃止に向けて再度ご検討くださるようにお願い申し上げます。
●文部科学省「放射線同位元素等の使用、販売業等の許可」及び「放射性同位元素又はこれに汚染された物の取扱い並びに放射線発生装置の使用の制限」
今回の放射線障害防止法の見直しにつきましては、障害を特定しない相対欠格への改正であり、一律に排除していた現行法に比べ改善されたと評価しております。ただ文部科学省令で検討される具体的な能力基準が恣意的に運用されると、結果として現状と変わらなくなるのではないかと危惧しております。
そもそも精神障害をもつ人が、業務が困難になるほどの状態になるのは、急性精神病状態などの特定の状況にある場合のみであり、通常は、精神の機能を理由として業務が困難になることはありません。
よって、省令で定められる基準は、急性精神病状態にある場合に限定し、今回の法改正の趣旨が活かされるようにご検討いただきたくお願いいたします。
<1月17日提出>
●警察庁「警備員の認定」、「警備員の制限」、「警備員指導教育責任者・機械警備業務管理者」、「警備員等の検定資格」
「警備業法」の一部改正案の内容は、当会の主張が反映されておらず、誠に残念に思っております。そこで改めて当会としての意見を表明いたします。
第一に、欠格事由の規定理由が合理性を欠き、「精神保健福祉法」の理念とも矛盾すること。
警備業法では、昭和57年の改正で、欠格事由が追加され、「精神病者」等が追加されました。なおその規定理由は「精神病者は一般的に判断力、自制力に欠けるところがあり、さらには、他人の生命、身体及び財産を侵害するおそれもあり、適正な警備業務の管理運営、実施を期待し得ないと認められるため」(1998年総理府調べ)でした。しかしこの規定理由は、古い精神病者観に基づいたものと考えます。現在の学会等の理解では、精神病者であっても、健全な精神状態を併せ持っているとしています。しかし今回の改正において欠格条項を必要とする理由に同様の趣旨が記されており、これまでの古い精神病者観から抜け出せていないと考えます。こうした精神病者観にもとづく今回の改正は、精神障害をもつ人の社会参加を阻害するだけでなく、精神病者に対する国民の誤解と偏見を拡大再生産するものと言わざるを得ません。現行の「精神保健福祉法」は昭和62年の改正で、精神障害者の理解と協力を義務づけており(3条)、同法の理念と相反する規定が警備業法に残されることに遺憾の意を表明します。
第二に、欠格条項を廃止しても、国民の警備業に対する信頼性を揺るがさないと考えられ、廃止すべきであること。
警備業は、民間で行われるものであり、いかなるものが警備業を営み、警備員として採用されるかは、基本的に民間の裁量に任されるところと考えます。無論、事業の性格上、最低限の規制は必要と考えますが、本欠格条項を廃止しても、警備員として「障害があっても十分な業務遂行能力」を有するか否かの判断は事業主が行えばよいことです。本欠格条項の有無によって国民の警備業に対する信頼性が揺るぐとは考えられません。よって、本欠格条項が廃止されることを強く要望いたします。
●警察庁「鉄砲又は刀剣類所持に係る調査業務」
「銃砲刀剣類所持等取締法」の一部改正案の内容は、当会の主張が反映されておらず、誠に残念に思っております。そこで改めて当会としての意見を表明いたします。
第一に、今回の改正は、現行法同様、病名を欠格の基準としており、精神疾患患者を一律に排除することになり、「精神保健福祉法」の理念とも矛盾していることから、改正内容の再検討をお願いします。
現行の「銃砲刀剣類所持等取締法」における欠格条項の規定理由は「精神病者、心神耗弱者のように健全な精神状態を完全に欠いている者や、これを欠いている者に銃砲刀剣類を所持させることの危険性を排除するため」と述べており、古い精神病者観に基づいた規定と考えます。現在の学会等の理解では、精神疾患をもつ者であっても、健全な精神状態を併せ持っているとしていますが、今回の改正は、これまでの古い精神病者観から抜け出せていないと考えます。このように一律に精神疾患患者を排除する規定は、精神疾患をもつ人の社会参加を阻害するだけでなく、精神疾患患者を危険視する誤解と偏見を拡大させるものと言わざるを得ません。現行の「精神保健福祉法」は昭和62年の改正で、精神障害者の理解と協力を義務づけており(3条)、同法の理念と相反する規定と考えます。よって、病名を欠格の基準としない改正内容にしていただきたく、再検討をお願いします。
第二に、再検討する際には、銃刀法の安全な管理能力に着目した欠格内容としていただきたくお願いいたします。
確かに銃砲刀剣類は、国民が一般的に所持するものではなく、その所持にあたって規制を行うことは合理的であり、必要なことと考えます。そして、自己や他人に危害を加える恐れが高い者に許可を与えないということも理解できます。しかし危害を加える恐れが高い者=「精神疾患患者」とは言えないことは、上述の通りです。自由民主党政務調査会「心神喪失者等の触法及び精神医療に関するプロジェクトチーム報告(案)」(座長熊代昭彦・平成13年10月30日)でも、「精神障害者は、我々の社会の大切な構成員である。精神障害者の犯罪率は、社会全体の犯罪率に比ベ、かなり高いのではないかと一般に漠然と考えられているが、その認識は正確な資科によって改められる必要がある。」と冒頭で基本認識を述べています。
よって「精神疾患患者」であろうがなかろうが、安全な管理ができない者を欠格とすることには賛成いたしますが、「精神疾患患者」を一律に対象とした今回の改正案は、合理性を欠いており、銃刀法の安全な管理能力に着目した欠格内容としていただきたく、ご検討のほどお願いいたします。
●警察庁「自動車等の運転免許」
さて、「道路交通法施行令の一部を改正する政令試案」の「第2 病気等に係る免許の拒否や取消しの基準等の整備について」、当会の意見を表明いたします。
第一に、「1 免許の拒否や取消し等の基準」については、試案のように「精神分裂病」「そううつ病」「てんかん」などの疾患名を挙げての基準を定めないこと。
特定の疾患を挙げて免許の拒否等を行う基準を定めることは、これらの疾患患者においては、当該疾患を有するすべての人々への偏見を助長し、その移動に関する生活のみならず、生活全般に影響を及ぼす可能性があります。
試案では「精神分裂病」「そううつ病」「てんかん」を挙げて運用基準を定めることとしていますが、自動車運転に支障をもたらすのはそれらの疾患のごく例外的で一時的な症状にすぎません。また、治療やリハビリテーションの進歩等により、精神疾患は従来よりも比較的短期に回復し、社会参加が可能となりました。このようなことから、回復を前提とした保留・停止にとどめるべきと考えます。
なお、精神分裂病関係、そううつ病の項目を削除した場合については、あらたに「急性精神病状態」という項目を立て、以下のような規定とすることを提言します。
「急性精神病状態」
(1)急性精神病状態にある人が、その症状により交通事故を起こした場合は、主治医または公安委員会が指定する医師が、その症状が消失し、運転に支障がない状態までに回復したと認めるまで運転免許を停止する。6月以内に回復しない場合は、6月ごとに停止期間の延長ができるものとする。
(2)(1)以外であっても、明らかに急性精神病状態にあり、主治医または公安委員会が指定する医師が運転に支障があると認めた場合は、最大6月間の運転免許の保留または停止を行う。主治医または公安委員会の医師が運転に支障がない程度に回復したと認めた場合には停止期間を短縮できるものとするが、6月を経過してもなお病状が回復しない場合には停止期間の延長を行うことができる。
また、てんかんに関しては、「発作の再発」という表現が不明確であるため、「再発」という表現の削除をお願いします。
第二に、「1 免許の拒否や取消し等の基準」については、試案の「…おそれがないと認められる場合には免許の拒否等を行わないこととします。」ではなく、「…おそれが認められる場合に免許の保留・停止等を行うことができます」と変更することを要望いたします。
「試験で確認することが困難な、幻覚の症状を伴う精神病であって政令で定めるもの、発作により意識障害又は運動障害をもたらす病気であって政令で定めるもの、その他自動車等の安全な運転に支障を及ぼすおそれがある病気として政令で定めるものにかかっている場合等には、公安委員会は、政令で定める基準に従って、免許の拒否や取消し等ができること」という規定は、当該疾患の有無にかかわらず試験に合格したものの内「拒否や取消し等」にあう者が例外であると解すべきと考えます。なぜならば、障害者施策推進本部の見直しの方針では、障害にかかわる欠格条項は原則廃止であり、「真に必要」なものについても、極力制限を限定化する旨の趣旨が謳われています。この試案は、運転に支障を来す可能性がある疾患や障害を列挙し、それらを有する人々の運転免許取得を制限することを前提として、例外的に障害や疾患が軽微な場合だけ免許の取得や更新を認めるという考え方に基づいていると解せられます。しかし、運転に支障があるのは、疾患や障害を持つ人の一部の人にすぎず、しかも疾患によっては一時的な現象にすぎません。よって制限が例外であることを明示するために、運用にあたっては「以下の諸基準は障害や疾患を持っている人も一市民として自動車を運転し移動する権利を有するものであるという基本的な認識に立って定められたものです。その適用にあたっては、免許の拒否・取消し等にのみ着目するのではなく、障害や疾患を持つ人が安全に運転でき移動できる諸条件を整えることに努めなければならない。」旨の趣旨が各公安委員会等に周知徹底されるようお願いいたします。
第三に、再発予測診断に基づいた処分や命令は行わないこと。
試案では、「免許証の有効期間中」あるいは「6月以内」に、「症状が再発するおそれがないこと」を医師に診断させ、その診断に基づいて免許の保留・停止・拒否・取消処分の決定、あるいは臨時適性検査(又は主治医診断書の提出)命令を行うこととしています。しかし、次のような理由から、将来の再発予測を処分の条件とすることは行うことは適切ではないと考えます。
1)一般に精神疾患の再発の可能性、とくにその時期を確実に予測することは不可能である。
2)再発すると予測して再発しなかった場合には当事者の生活権の著しい侵害をもたらす。
3)主治医が、自動車免許取得制限のために再発可能性を記した診断書を発行することは、主治医と患者の信頼関係を損ない治療継続を困難にする可能性がある。
第四に、病気などを原因としてやむを得ず運転免許の停止処分等を行う場合には、一律にすべての運転を禁止するのではなく、障害の質と程度に応じて停止処分の内容を弾力的に決められるようにすること。そのためには「運転制限に関する諮問委員会(仮称)」の設置が必要である。
病気などを原因としてやむを得ず運転免許の停止処分等を行う場合には、一律にすべての運転を禁止するのではなく、運転目的(自家用、人員輸送業務、運送業務など)、運転道路種と運転距離、運転時間帯、服薬遵守など、その運転に支障を来す障害の質と程度に応じて停止処分の内容を弾力的に決められるようにすべきと考えます。そのためには、障害者団体代表や精神科リハビリテーションの専門家が加わった「障害にかかわる運転制限に関する諮問委員会(仮称)」を設置し、公安委員会の決定を保佐するシステムが必要です。
このような配慮を行うことによって、日頃から制限されがちな障害者の移動制限の拡大を最小限にくい止めることができます。
第五に、免許申請時や免許更新時の病状等申告制度の導入にあたっては、まず申告対象となる病状出現期間を限定化すると同時に、病状等を申告した者が、必要以上の権利制限が行われないように配慮すること。
試案では、免許申請書又は更新申請書に、具体的な病名等の記載は求めないが、「病気等ごとの具体的な運用基準」に該当する症状等を有しているかどうかを把握するために4項目の設問に回答しなければならないとしています。この申請書に精神疾患に関する回答欄がないことはご配慮いただいたものと考えます。
しかし4項目目(医師から助言を受けている場合)のみ「現在」という限定がなされているものの、他の項目については、期間の限定がなく数十年前にあった病状でも素直に読めば該当者として申告を促すものとなっています。改正案の趣旨からいえば、当然一定期間内に限定されるべきであると考えます。
さらに、必要以上に申告者の免許取得の制限を回避し、また適切な医療サービス等に結びつけるためにも、相談機関で適切な相談が受けられるように配慮することを求めます。